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おすすめの山岳図書 ~小説編 その6

・ミッドナイトイーグル 高嶋 哲夫 ★

お勧めの山岳図書で書評的なことを随時アップしてますが、できの良い山岳小説には中々出合えません。

一つの理由として実際の山、クライミングのリアルさが感じられない作品が多く、読んでいるうちに興醒めしてしまうからでもあります。

自分の山での経験を盾に上から目線で言っているわけではないのですが、これは事実です。
(実際、私の山歴など大したことないですし)



今回ご紹介する「ミッドナイトイーグル」はその最たるもので、あまりのリアリティのなさに途中で読むのを放棄しようとさえ思いました。
お勧めの山岳小説と言っておきながらなんですが…

物語のあらすじは…

核爆弾搭載の米軍ステルス爆撃機が北アルプスの槍沢上部の天狗原に墜落、それをたまたま目撃し、撮影した報道カメラマンと新聞記者が特ダネ狙いで冬のアルプスへ潜入する。そこには北朝鮮軍と自衛隊とが入り乱れて核爆弾をめぐっての激しい攻防が展開されていた。
やっとのことで、ステルスに辿りついた主人公たち。そこに迫りくる北朝鮮軍。
核爆弾が彼らの手に渡ることだけはなんとしても阻止しなければならない。
そして、最終的に政府が選択した手段とは…

まぁ、設定の意外性や核をめぐる国際的謀略など、娯楽作品としてはお膳立ては出来ています。

しかし、あまりにも安易な展開にずっこけしまくりました。

先ず、吹雪く厳冬期北アルプスでの主人公たちの行動。

書かれている設定状況なら通常、行動不可能な天候なのに、主人公たちはサクサクと行動し、出合った自衛隊員を救助さえしています。
食糧も無いのに猪突猛進に天狗原を目指す。そのモチベーションって何?
何やかんやで、気がつけば天狗原。どこから登ったん?まさか槍沢から?(゚Д゚)

その他、訓練も受けてないのに敵とのいっぱしの銃撃戦など、突っ込みどころは満載です。

あと、登場人物の心理描写も浅く、感情移入ができません。
結末も、主人公がその運命を受け入れる必然性が感じられないので、「あらら…」程度の感想です。



ぼろくそに書きましたが、これ、映画化もされたようですね。
まぁ、一般的には受けるのでしょうが…
ここまで書いたらわざわざ読む人はいるのかな?あくまでも私にとってということで。

エベレストに核爆弾搭載の人工衛星をぶち込んだ「天空への回廊 笹本稜平」の方がよほど納得がいきます。

でも、小説とは言え、あまり山に変なもの落とさないでね。

DSCN0258.jpg
夏の天狗原(槍沢上部)


ミッドナイトイーグル (文春文庫)ミッドナイトイーグル (文春文庫)
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高嶋 哲夫

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おすすめの山岳図書 ~小説編 その5

・高熱隧道 吉村 昭 ★★★

書評が続きます。
いわゆる山岳図書の分類からはちょっと外れるかも知れませんが、舞台は黒部の険谷という紛れもない「山岳」です。

昭和11年、日中事変前の戦時体制が加速される最中、黒部第三発電所建設は着工されました。

「高熱隧道」は発電所建設の中でも最も困難を極めた第一工区、第二工区、その中でも阿曾原谷軌道トンネル工事での自然と人間のたたかいを描いた記録小説です。

黒部第三発電所建設の犠牲者は300名を越えたのですが、そのうち、上記工区の犠牲者は233名であったことからも如何に凄まじい難工事であったのかが想像できます。



この工区を受け持った佐川組の技師・根津は隧道掘削のエキスパートであり、自らの矜持にかけてこの工事に取り組む。

しかし、待ち受けるのは火山地帯が故の高温の岩盤で、それは最高166度にも達した。

たび重なるダイナマイトの自然発火で犠牲になる人夫…

そして、鉄筋五階建ての宿舎を対岸の奥鐘山西壁まで吹き飛ばす泡(ほう)雪崩…

1年3カ月の難工事の末、多くの犠牲を払い、阿曾原-仙人谷間704.9メートルの水路隧道は完成した。




多くの犠牲にもかかわらず工事が継続遂行されたのは準戦時下の軍部の意向もあるのでしょうが、トンネル貫通という、至ってシンプルな目標を共有した組織は目標が困難であればあるほど達成快感をモチベーションとして異常な程の熱狂を持って立ち向かっていきます。

「なぜしんどい思いをして山に登るの?」という問いの答えもこのあたりに在りそうです。

それにしても泡雪崩に代表される驚異的な黒部の自然には圧倒されます。
この大自然の前では人間の力など一蹴されてしまうのですが、反面、強固な意志を持って目的を完遂してしまうのもまた人間です。

対峙の図式を「自然」から「敵対する集団(国)」に置き換えると、熱狂的集団の恐ろしさも垣間見えるのですが。

吉村昭が描きたかったのはそういった「人間の性」なのかもしれません。
それによって人類は進歩もし、そして戦争も繰り返してきたのですから。



第三発電所建設に際して整備された阿曾原~欅平間の水平歩道(日電歩道)
当時、この道を辿る歩荷人夫の滑落も相次ぎました。
PC311329.jpg




高熱隧道 (新潮文庫)高熱隧道 (新潮文庫)
(1975/07/29)
吉村 昭

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おすすめの山岳図書 ~小説編 その4

・遠き雪嶺 谷 甲州 ★★

昭和11年 日本初のヒマラヤ遠征登山で、処女峰ナンダ・コート初登頂を目指す立教大山岳部の苦難と栄光を描いた事実に基づいた山岳小説。

積雪期の北アルプスで尖鋭的登山を実践していた立教大山岳部。
彼らにとって国内でのバリエーションルートの延長線上に海外の山=ヒマラヤを目標に据えるのは当然の流れであった。

ヒマラヤへの夢を抱きつつ、積雪期のアルプスで幕営や極地法のテストを実践する日々。
そんな中、ヒマラヤ遠征の計画が具体化する。

だが、遠征準備は先ず資金集めで躓く。
当初の遠征隊規模の縮小を余儀なくされるなか、装備のテストと手配、渡航手続き、物資輸送、勝手分からぬ現地でのシェルパ、ポーターの雇用、そしてキャラバン。

前例がなく、情報の少ない中、全て手探りで進める準備は苦難の連続であった。

一カ月を費やし第四キャンプを設営したが、天候に恵まれず一度は頂上稜線から止むを得ず退却。
そして、撤退の期限が迫る中、最後のアタック。その先にあるものは・・・



改めてパイオニアワークが如何に大変なことなのかを実感させられます。

ナンダ・コート自体は7000mに満たないヒマラヤでは小粒な山なのですが、当時の粗末な装備、少ない情報、未知の高所生理、悪天候との戦いなどを考えるとこの遠征登山が如何に画期的であったのかが覗えます。

戦争の暗い時代を挟んでいるとは言え、次の日本人ヒマラヤ登頂(マナスル)まで20年かかりました。



本書は事実に基づいているとは言え、筆者曰く、あくまでもフィクションとして脚色しているとのことですが、綿密な取材を重ねていることもあり、事実も大きく異なるものではないと思います。

小説は遠征隊員の浜野の視点で語られる臨場感溢れる描写が秀逸です。

ちなみに本遠征は立教大学のWEBページにも今なおトピックスとして掲載されています。

(以下立教大ページより無断転載 (^^;)
169-6975_IMG.jpg 169-6981_IMG.jpg

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おすすめの山岳図書 ~小説編 その3

神々の山嶺 夢枕 漠 ★★

夢枕漠の渾身の山岳小説。
普通に読めば間違いなく★★★なんだと思います。


山に懸けるストイックな姿、男の生き様、ライバルとの確執、恋愛、魅力的な謎解き、サスペンス、息を飲むクライミングシーン、心に残る結末・・・これらが夢枕流の硬質な語り口で綴られ、一気に読まされるでしょう。

なぜ★★にしたのかというと・・・

私自身、主人公の羽生が夢枕漠の他の小説の主人公と同じ匂を感じてしまい、いまひとつ物語に没頭できないのです。
なんというか、獣臭いんですよね。

夢枕漠の小説は好きなので、読み漁った時期があったのですが、色々と飽きたというか、心情の露土や立ち振る舞いがパターンとして読めてしまうのです。
まぁ、これは私自身の事情ですが。

それと、主人公の羽生とライバルの長谷はまぎれもなく実在の人物をモデルにしています。
羽生は森田勝であり、長谷は長谷川恒夫です。

物語りに語られるエピソードも実際にあった出来事がほとんどそのまま引用されています。
(三スラ⇒鬼スラなど、架空のルート名に変えてあったりしますが。)

ここまで実在モデルを意識させてしまうと、もう羽生でも長谷でもなくなってしまいます。

「狼は帰らず アルピニスト森田勝の生と死」 佐瀬稔
「岸壁よおはよう」 長谷川恒夫 「虚空の登攀者」 佐瀬稔


を読んでしまったら、残念ながら物語を純粋に楽しむことはできないですね。
ということで、私的に二重の意味で没頭できない小説でした。


夢枕漠をあまり読まない人、森田勝も長谷川恒夫もよく知らない人にとって、一つ突き抜けたレベルの山岳小説としておすすめできます。




余談ですが、夢枕漠の処女長編小説「幻獣変化」は釈迦が不老不死の果実を求めて異形の地
にある7000mの巨大木を登る話ですが、山岳小説として読むと中々面白いですよ!
(後に「幻獣変化」は「涅槃の王1 幻獣変化」と改題され、壮大な物語のプロローグになっています。)


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おすすめの山岳図書 ~小説編 その2

還るべき場所 笹本稜平 ★★★

世界第2の高峰、ヒマラヤのK2。未踏ルートに挑んでいた翔平は登頂寸前の思わぬ事故でパートナーの聖美を失ってしまう。事故から4年、失意の日々を送っていた翔平は、アマチュア登山ツアーのガイドとして再びヒマラヤに向き合うことになる。パーティに次々起こる困難、交錯する参加者の思い。(BOOKデータベースより)




久しぶりにずっしりと心に響く山岳小説を読んだ気がしました。

この重量感は、テーマとして登山を扱ってはいるが、その底流には登山を人生のメタファーとして、生き方や人生の指針がうまく語られているからでしょう。

人生の中で出会う不安、挫折、喪失、苦しみ、そしてそれを乗り越えた時の喜び、幸福…
困難な登山はそれ自体のプロセスが人生の縮図として当てはまります。


笹本氏は公募登山に参加した会社経営者の神津を自身の代弁者として、人生の指針となる数々の名言を語らせています。

強力なリーダーシップと発想で会社を育てあげた剛腕経営者に語らせることで、ともすれば上滑りになりがちな人生訓も驚くほど素直に読者に伝わります。

神津の存在により単なる山岳小説に留まらない重みを与えることに成功しています。

といっても物語の中心はヒマラヤ登山で、その中の人間関係やトラブル、遭難といった数々の難題に立ち向かう姿がリアルに描かれ、息をもつかせぬ展開はさすが笹本氏ですね。

読んで損のないおすすめの一冊です。




※笹本氏はクライミングの経験はあるのかな?
 登攀シーンなど、中々リアルに描写されており関心するのですが、
 5.11aが国内最高の難易度のルートであったり、たまにおかしな描写があります。
 かなり綿密に取材したのだろうけど、恐らく、クライミング経験はないんでしょうね。

※プロットは別として、物語の着想に
   ・山野井夫妻のガチュンカン遭難  山野井泰史「垂直の記憶」、沢木耕太郎「凍」
   ・ジョー・シンプソンとサイモン・イェーツのアンデス シウラグランデ西壁の遭難 「死のクレバス」
   ・エベレスト公募登山の悲劇を描いたジョン・クラカワーの「空へ」
 などのノンフィクションが大きく影響を与えているのは間違いないと思います。

※笹本氏の山岳小説では「天空への回廊」も大変面白いのですが、良くも悪くもハリウッドのスペクタクル映画的ですね。つまり、クリフハンガーやダイハード的な圧倒的面白さはあるけど、それ以上ではないかな。




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プロフィール

ひろろ

Author:ひろろ
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刺激が行動原則です。
クライミング、沢登り、ランニング、パラグライダー、音楽、アコギ、ロック、プログレ、画像処理、カラーサイエンス…京都からの発信です。

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