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山岳遭難 壮絶極まる闘病記

・ひび割れた晩鐘 亀山 健太郎 ★★
副題:「山岳遭難・両足切断の危機を乗り越えて」

退院後、骨折治療の情報をネットで調べている時に、著者の闘病記の存在を知った。

自分と同じ、沢登り中、滝の登攀での滑落、そして骨折という似た状況での闘病記ということで、すぐさまAmazonにて注文、身につまされながら一気に読了した。



著者は丹沢・源次郎沢を遡行中、F5左リッジ登攀中に滑落、両足の脛骨を開放骨折(骨が体外に飛びでる骨折)してしまう。

骨折の状況は滝つぼから飛びだした骨片を拾うほどの酷さであった。

遭難発生から救助、救急搬送されるまで、17時間、そして緊急手術。

本当の戦いはそこから始まった。

開放骨折の場合、露出した骨髄は細菌に侵され、切断の危機に曝される。

案の定、沢水に曝された骨は感染を発症し、5ヵ月以上の期間と実に7回の全身麻酔による洗浄と消毒を経て、感染による下肢切断の危機を克服した。

しかし、粉々に砕けた脛骨はそのままでは整形の手立てはなく、残された唯一の手段である「イリザロフ法による骨延長術」を選択するしかなかった。

イリザロフ法とは健全な骨を切断し、ワイヤーで固定した創外固定装置にてじわじわと骨を引き離しつつ、出来た間隙に新たな骨組織を形成して失われた骨を延長する方法である。

延長は1日1mm、著者の場合は両足10cm以上の伸展が必要であった。

そして事故から1年4ヶ月の入院を経て、絶望の淵から松葉杖での二足歩行ができるまで回復した。


本書は、遭難から救出の顛末、感染症との戦い、イリザロフ法での治療、そしてリハビリを日々の葛藤、諦念、焦燥、希望を交えて患者の目線からの詳細な記録である。

また、医師や看護師、理学療法士とのコミュニケーションから始まり、入院生活全般や治療費のことなども詳しく書かれており、怪我のレベルは異なるが、同じ経験をした自分としては、「うんうん」と頷きながら一気に読まされた。

著者はその強靭な意志と努力で自分の足で歩けるまで回復したが、治療とは患者自身の積極的な参加なくしては成り立たないということが実感される。

尖鋭的登山の遭難記でもなく、市井の誰にでも起こりうる事故の顛末、闘病記がこうして出版されたことの意義は大きいと思う。

昨今の登山ブームの警鐘として全ての登山者に、また、患者側の視点での医療現場、刻々と変わる患者の心理を知るうえでも医療に携わる人々に、さらに、今なお闘病に苦しむ患者に一読をお勧めする。


ひび割れた晩鐘―山岳遭難・両足切断の危機を乗り越えてひび割れた晩鐘―山岳遭難・両足切断の危機を乗り越えて
(2007/06)
亀山 健太郎

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おすすめの山岳図書 ~ノンフィクション編 その8

・空へ  ジョン・クラカワー ★★★

1996年5月、12人もの死者を出す遭難がエベレストで発生しました。

本書(原題:Into Thin Air)はエベレスト営業登山隊の実態をルポルタージュするために、たまたまニュージーランド人ガイドのロブ・ホープ公募登山隊に参加し、遭難から生還した著者が描き出した遭難記です。

このロブ・ホープ隊には日本人登山家の難波康子さんも参加しており、登頂後(田部井淳子さんに次ぐ日本人第二登)、行方不明となり、命を失いました。

この時のエベレストは公募登山隊の他、国家的プロジェクトの登山隊や単独のエクスペディション、映画の撮影隊などが登頂を目指しており、その登山計画は一歩かけ違えると破たんする綱渡りの様相を呈していました。

ロブ・ホープ隊への参加費用は当時のレートで780万円程で、ガイドは「顧客」との契約のもとに「登頂」を目指すことになります。一般の登山パーティ以上に「登頂」を意識せざるを得ない状況に置かれるのが公募登山だと思います。

遭難はパーティの分断から管理不能な各メンバーの独自の行動によって傷口を広げていきます。まるで単独行のようです。

経験も力量も異なる混成メンバーからなる公募登山では、一般の登山パーティー以上にメンバーの行動の自由を厳しくコントロールする必要があるのでしょう。そうしていれば避けられた遭難なのかもしれません。

しかし登頂出来ない場合の主催者の営業評価は…他のガイド登山遭難事例も含め考えさせられます

昨今のエベレスト公募登山を指して「フィックスロープの手すりが張り巡らされたハイキング」と揶揄する声もありますが、やはり8000mを越えた領域は「デス・ゾーン」であることは間違いありません。
この高所では有事に際して誰も救いの手を差し伸べる余裕はありません。

本書は遭難の当事者である著者が、その後に綿密な資料調査とインタビューを重ねて書き上げただけに、迫真に迫る描写の中に係わる人々の姿を見事に浮き彫りにしています。

寒い冬に読むと余計に凍えそうになりますが、営業登山、パーティーとは、登山の自己責任などを考えさせられる一冊です。

以前、おすすめの山岳小説にも挙げた笹本稜平の「帰るべき場所」も公募登山を題材としていますが、現実はあんなスーパーマンはいないということですね。

ちなみに私のブログのタイトル「Into Thin Air」は本書から頂戴しました。
単純に語感が良かったからで他意はありません。


空へ―エヴェレストの悲劇はなぜ起きたか (文春文庫)空へ―エヴェレストの悲劇はなぜ起きたか (文春文庫)
(2000/12)
ジョン クラカワー

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おすすめの山岳図書 ~ノンフィクション編 その7

・大いなる山大いなる谷 志水 哲也 ★★ (あなたが沢ノボラーなら★★★)

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志水哲也氏は現在、山岳写真家、山岳ガイドとして活躍されていますが、本書は彼の若き日の山行を綴った青春の記録です。

将来の目標を見失っていた高校時代、山との出会いにより生きる糧を見出します。
それから山へ、沢へ、岩壁へとのめり込んで行くわけですが。

本書は

・山  - 17歳の時の夏季 北アルプス全山縦走(42日間)
・渓谷 - 黒部の谷 全沢25本トレース(1986年、1987年)
・岩壁 - 谷川岳衝立岩単独、ドリュー南西岩稜単独など
・山稜 - 冬季南アルプス全山縦走、冬季知床半島全山縦走など

の4部構成となっています。

中でも本書の半分近くを占める「渓谷-黒部の谷Ⅰ、Ⅱ」が凄まじい。

志水氏は1986年に宇奈月温泉、1987年に黒部湖畔のロッジくろよんにそれぞれ、のべ3カ月以上投宿し、黒部の谷を隈なくトレースしました。
驚くべきことに、そのほとんどを単独でこなしています。

情報の少ない未知の険峪に単独で挑む精神力と技術には脱帽します。

圧巻は「幻の剣沢大滝」を含む剣沢単独遡行で、9日間に渡るルート工作を経て2ビバークでこれを成し遂げています。

全ての記録に詳細な遡行図が添えられていて、沢ノボラーには堪りません!
自分には到底そこまでの技術や体力はありませんが、手記を照らし合わせて読むと思わず疑似体験で手に汗をかいてしまいます。

遡行記録としても価値があるものですが、綴られる手記には志水氏の山への思いが静かに、しかし熱く綴られており、読む者を飽きさせません。

「出発前はいつも不安に襲われる。一方、今度はどんな滝が潜んでいるかと考えるといつも何らかのときめきを覚える。そして黒部の谷はその期待を裏切らない。
驚嘆する景観を前にして、僕はときとして立ちすくむ…」


何度も読み直しました。そして読むたびに憧れの沢へいざなわれます。


大いなる山 大いなる谷大いなる山 大いなる谷
(2004/06)
志水 哲也

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おすすめの山岳図書 ~ノンフィクション編 その6

・冬のデナリ 西前 四朗 ★★~★★★

福音館文庫の児童書(対象年齢小学校高学年)とあったので長い間手に取ることがなかった本です。


デナリとは北米大陸最高峰のマッキンレー(6194m)の現地名です。

1967年1月、厳冬期マッキンレー初登を目指した著者を含む様々な国籍の8人のメンバーの凄まじい戦いの記録です。

この時期にここまで先鋭的な登山を行っていた日本人がいることに驚きます。

ベースキャンプからの登山開始早々、メンバーの一人をヒドゥンクレバスへの滑落で失うところから躓きが始まり、パーティーの混乱の中、登山は継続されていきます。
風速50m、気温零下50度の極寒の中、アタック隊とサポート隊がバラバラに分断されそれぞれが生きるためのサバイバルを強いられます。そしてその果てには…



本書は隊員たちの会話が主体で、そういう意味では小学校高学年以上なら読み進めることは可能でしょうが、それぞれの思惑と軋轢、挫折と喜びをくみ取るのは人生経験を積まないと無理だと思います。

登頂は成し遂げられたものの、奇跡的ともいえる僥倖に助けられて生還したということもあり、著者にとってはひりひりと痛む心の傷を負ったのかもしれません。
著者が本書を脱稿したのが1996年ですから、当時の顛末を昇華させるのに30年の歳月が必要だったのでしょう。

同年、著者は出版を待たずして他界しました。

ここまで正直にメンバーの心情をつづった登攀記録も珍しいでしょう。
美しいカラー写真もふんだんに掲載されており、当時の状況がまざまざと伝わってきます。

児童書という色眼鏡をはずして読むべし!


冬のデナリ (福音館文庫 ノンフィクション)冬のデナリ (福音館文庫 ノンフィクション)
(2004/02/20)
西前 四郎

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おすすめの山岳図書 ノンフィクション編 その5

・垂直の記憶 山野井泰史 ★★

山野井泰史関連の三冊目。

ヒマラヤ、カラコルムでのクライミング、7編を自ら綴った登攀記録。

文章は沢木など、文筆を本業とするものに及ぶべくもないが、クライマー自らの視点で語られた内容はクライミング経験のある人にとってはそのリアルさに疑似体験させられ、思わず身震いする。

記録は1991年のブロードピーク登頂から2002年のギャチュン・カン北壁第2登までで、ソロクライミングの舞台をヒマラヤに求めた時期をまとめている。

ギャチュン・カン北壁での遭難の顛末は、山野井の記述に妙子の視点からの記述を織り交ぜ、記録により客観性とリアルさを与えている。
沢木耕太郎の「凍」のようなストーリー性は感じられないが、淡々と語られる絶望的な状況に、まるでその場にいるような臨場感を感じてしまう。

各章の間に短いエッセイが挿入されており、山野井自身の人となりが伺えて興味部深い。

その中でも印象的なのが、「山で死んでも許される登山家」というエッセイで

「僕は日常で死を感じないならば生きる意味は半減するし、登るという行為の魅力も半減する。」

「登山家は、山で死んではいけないというような風潮があるが、山で死んでもよい人間もいる。
そのうちの一人が、多分、僕だと思う。これは僕に許された最高の贅沢かもしれない。」


ここに彼の尖鋭的ソロクライミングの根源があるように思う。

「生」を輝かせるのは「死」とのコントラストの中にあり、死と隣り合わせの困難を克服したとき、めくるめくまでの「生」を感じる…
この快感を知ってしまったらもう抜けられないのかもしれない。



フリーソロのスペシャリストのジョン・バーカーが2009年にフリーソロ中の墜落で亡くなりました。
クライミングのジャンルは全く異なるけれども、その精神において山野井とバーカーとは等質のものを感じます。
ギャチュン・カンの遭難がなければ今は山野井も山に散ってしまっていたのかもしれません。

彼だけに許された贅沢を満喫しながら。


垂直の記憶―岩と雪の7章垂直の記憶―岩と雪の7章
(2004/03/01)
山野井 泰史

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Author:ひろろ
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刺激が行動原則です。
クライミング、沢登り、ランニング、パラグライダー、音楽、アコギ、ロック、プログレ、画像処理、カラーサイエンス…京都からの発信です。

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