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クライミングと神経伝達物質・・・そして最後の救い

実際にクライミング経験のある人にはわかると思うのですが、クライミングでのリードの緊張感、困難な状況での心理的葛藤、そして登りきった時の大きな達成感などは他のスポーツとはかなり質が異なります。

これがクライミングが他のスポーツと一線を画する要素であり、また魅力でもあります。

人の情動は様々な状況の中で分泌される神経伝達物質によって支配されています。
なおそらく、クライミングほど神経伝達物質に大きく関わっている行為は無いと思います。
今回はそんなお話。

・困難なルートとノルアドレナリン

未知のルートや困難が予想されるルートに向かうとき、クライマーは大きなストレスに晒されます。
最初の一歩を踏み出すまでの心理的葛藤はクライマーなら誰でも経験があると思います。

人は大きなストレスを感じると脳幹からノルアドレナリンが分泌されストレスを収束する行動-闘争か回避か-を行います。

クライマーは自分の技量とルートの状態などを測り、合理的に戦略を立てます。
心拍数が上がり、脂肪からエネルギーを放出して筋肉のすばやい動作が可能となります。
そしてクライミング! 闘争の開始です。

クライミング中も同様で、ルートの困難な箇所に差し掛かり、身動きが取れない状態になった場合、ノルアドレナリンが大量に分泌され、困難の克服に全力を投入します。

・完登 - 多幸感とドーパミン

なんとか困難を克服してルートを完登。至福の時です。

アドレナリン作動神経系の興奮はドーパミンを生成するA-10神経系と呼応して同様に興奮が伝わります。

ストレス-クライミングにおいての墜落や敗退の恐怖、肉体的脅威が克服され、ルートの完登や安全地帯への脱出がなされたとき、一気にドーパミンが分泌され快感神経系(A-10)が活性化し、叫び出したい程の多幸感が得られます。

これは危険や困難が大きければ大きいほど強い快感となるため、より困難なクライミングを目指すという麻薬的依存性があります。
確保なしのフリーソロクライミングに嵌るクライマーはこの快感の虜になっているのかもしれません。
ちなみにドーパミンは覚せい剤とよく似た構造を持ちます。

・墜落=死 そして最後の救い-脳内麻薬様物質(オピオイド)

困難な箇所での凄まじい闘争の結果や思わぬアクシデントで墜落してしまった。
安全のためのロープ確保も何もない…あとは地面にたたきつけられるだけ…


闘争も回避もできない深刻なストレスに曝された場合、交感神経の興奮によってGABA神経系からβ―エンドルフィンやエンケファリンなどの脳内麻薬様物質(オピオイド)が分泌されます。

オピオイドはその名の通り、阿片(オピウム)によく似た構造を持ちます。

救いのない墜落を一瞬にして自覚したクライマーはオピオイドの受容によって精神活動や感情が鈍化し、全くの無抵抗状態になります。

誰かが地面に叩きつけられようとしている。でもどういうわけかそれは自分にはかかわりがない。時間概念と現実感と恐怖が喪失し、ある種の安息感に包まれる。

といった離人症的な状況になる場合もあるようです。

客観的には悲惨で恐ろしい墜落死も当事者にとっては諦念の果ての安息のもとに、なんら痛みを感じることもなく死を迎える場合も多いようです。(※)

生物にとっての最後の救いがこのオピオイドです。
例えばライオンに襲われたカモシカが最後には無抵抗で捕食されるものオピオイドの効果です。

ちなみにランナーズ・ハイはβ―エンドルフィンの分泌によるものです。

(※)
ラインフォルト・メスナーは著書「死の地帯」で絶望的な墜落から生還したクライマーの墜落時の記憶を収集し、多くの場合、安息感に包まれ痛みも感じなかったという状況をまとめました。
そういったケースに共通するのは「全くの諦念(あきらめ)」が前提となるようです。



墜落は別として、困難さの尺度などは個々人でまちまちです。
何れにしても、自らの力量をわきまえて安全なクライミング、登山を楽しみたいものです。


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LED照明ってどうよ? - その3

今回のカラーサイエンスは予告通り最近話題の「LED照明」について。

経済産業省は2008年5月、家庭で使用される白熱電球の製造・出荷を12年中に原則中止するよう要請し、本日(6月13日)政府は白熱電球からLED照明への切り替えを促すため、メーカーや家電量販店に対し、販売面での協力を要請したという記事がありました。

主眼は省エネで、電気を食う電球から長寿命、省電力のLED照明へということですが、単純に右から左へ置き換える場合の光の質についての議論はあまりなされていません

前々回のカラーサイエンスで説明したように、白色LEDは高輝度青色LED+蛍光体で白色を
作り出しています。
蛍光体を色々変えても必ず青色LEDは必要となります。(実は紫外LEDでもいいんですが)

これは、蛍光体自体が短い波長、すなわち、高いエネルギーの光を受けて、それよりも長い波長、すなわち低いエネルギーの光を出すという性質から避けることができません。

すなわち、LED照明には必ず高輝度の青成分が含まれているということです。
(前々回の白色LEDのスペクトルを見てください。)

人の目は青色あたりの比視感度が低いため、かなり強い青色光を見てもそれほど眩しく感じません。
しかし、青色はエネルギーが高いため、それこそ見た目以上に網膜にダメージを与える危険性があります。

(青色LEDのスペクトルピークは450nmあたり)

hishikando.jpg
比視感度曲線 緑あたりの感度がもっとも高い(Wikipediaより)

※昔、開発していた装置の光源に高輝度青色LEDを使用していたものがあったのですが、実験などで無意識に光を見ているうちに残像がしばらく残ってなかなか消えなかったことがあります。
 眩しくないので反射的に目を閉じたり避けたりしませんでした。

まぁ、LED電球なんかはLEDの点光源を拡散させているのでそれほど影響はないと思いますが、特にLEDそのものを配列した懐中電灯などは光を直接目に入れないようにした方がいいと思います。

あと、青の光は睡眠を誘導する脳内ホルモンのメラトニンを抑制するという実験報告もあります。
部屋の照明をLEDに変えてから寝付きが悪くなった・・・なんてことが起こるかも。

※緑が抑制効果が高いというレポートもあったりで、正直よくわかりません。
 何れにしても夜は明るい光のもとで過ごさないほうが良さそうです。


LED照明は新しい照明なので、人体に対する影響などはなかなか予測がつかないでしょう。
これから壮大な人体実験が始まるのかな?




ちょっとリスク面を強調しすぎたかも知れません。
初期の白色LEDの演色性の問題も蛍光体を工夫して改善されていますし、照明角度も
300度くらいの物もあります。
調光(パルス幅変調点灯)や調色も簡単にできるのでなかなか便利なのも事実です。

消費者もきちんとLED照明を理解して適所に使うのがいいと思います。
こういう新しいテクノロジーはどうしても理系チックで着いていけない人も多いのが実情ですが…

文中に光とホルモンの話をちょっと書きましたが、このネタは面白そうなので、また今度掘り下げてみます。

夜店や屋台の裸電球は郷愁をそそられ大好きなんですが…LEDではねぇ。


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ミシェル・ペトルチアーニのこと

なんか唐突に思い出してしまった。

もう記憶も定かでないのだけど、たぶん1986年の夏だったと思う。

当時、毎夏、蓬莱山の麓、びわ湖バレイの駐車場でオールナイト・ジャズ・フェスティバルっていうのが開催されていた。

コンサートを聴きに行くっていうより、遠く聞こえる演奏をBGMに焼き肉で宴会っていう乗りだった。

騒ぎ疲れた深夜、蒸し暑さに寝られるわけもなく、ちょっとは真剣に聴くかと無理やりステージ前へ。

ちょうど、お気に入りのMALTAのステージで、「Manhattan in Blue」を演奏中だった。
レコードで何回も聴いていた曲の生演奏にちょっと幸せな気分に。

MALTA & Hit and Run - Manhattan in Blue
携帯用動画リンク

そうこうしているうちにMALTAのステージも終わり、MCがミシェル・ペトルチアーニの名前を告げる。

ペトルチアーニ?セットリストにも載ってなかったのでは?誰それ?って感じ。
ステージに現れたのは身長が100cm程の小人のピアニストだった。ソロだったと思う。

そして演奏が始まった途端、紡ぎだされるピアノの旋律に一瞬にして魅了された。

曲目は覚えてないけど、力強いタッチと澄みきった響きが共存し、比良の山にこだまする。
こんな蒸し暑い夜なのに寒気を覚え、鳥肌が立った。


今、検索してもびわ湖ジャズフェスに彼が出演してたという情報が見つからない。
あれは夏の夜の夢だったんだろうか。



ミシェル・ペトルチアーニ
1962年生まれ。先天性の骨生成不全症の障害を背負い、二十歳までも生きられないと宣告されていた。
クラシックピアノからジャズに傾倒し、13歳で初コンサート、18歳でトリオを組む。
フランス人初の名門ブルーノート・レコード専属契約ピアニスト。
1999年 ツアー先のニューヨークで肺炎のため急逝。享年36歳であった。



彼の演奏は打鍵の強さから他の弦の共鳴を生み出し、厚みのある「音」を醸し出す。
それでいて、綺麗な音と繊細でロマンチックな旋律に心を奪われる。
彼にとって障害が音楽性にどのような影響を与えたのかは知る由もないが、少なくとも、聴く者にとって何のエクスキューズを与えるものではない。単純に「ペト」のピアノに惹かれるだけ。

そんな彼の演奏の中でも「September 2nd」はお勧めです。美しい旋律と展開の意外性、緊張感溢れるインプロビゼーション、そしてロマン。彼の魅力がいっぱい詰まっています。


Michel Petrucchiani - September Second

携帯用動画リンク

こちらは1991年のアルバム「Playground」から
トリオのライブの緊張感はなくFusionアレンジだけど、ピアノは絶品。途中からの奔放なアドリブは悶絶!

携帯用動画リンク

短い生涯をピアノと共に駆け抜けた彼が残してくれた音の遺産に感謝します。

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ミシェル・ペトルチアーニ、スティーブ・ガッド 他

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おすすめの山岳図書 ~小説編 その4

・遠き雪嶺 谷 甲州 ★★

昭和11年 日本初のヒマラヤ遠征登山で、処女峰ナンダ・コート初登頂を目指す立教大山岳部の苦難と栄光を描いた事実に基づいた山岳小説。

積雪期の北アルプスで尖鋭的登山を実践していた立教大山岳部。
彼らにとって国内でのバリエーションルートの延長線上に海外の山=ヒマラヤを目標に据えるのは当然の流れであった。

ヒマラヤへの夢を抱きつつ、積雪期のアルプスで幕営や極地法のテストを実践する日々。
そんな中、ヒマラヤ遠征の計画が具体化する。

だが、遠征準備は先ず資金集めで躓く。
当初の遠征隊規模の縮小を余儀なくされるなか、装備のテストと手配、渡航手続き、物資輸送、勝手分からぬ現地でのシェルパ、ポーターの雇用、そしてキャラバン。

前例がなく、情報の少ない中、全て手探りで進める準備は苦難の連続であった。

一カ月を費やし第四キャンプを設営したが、天候に恵まれず一度は頂上稜線から止むを得ず退却。
そして、撤退の期限が迫る中、最後のアタック。その先にあるものは・・・



改めてパイオニアワークが如何に大変なことなのかを実感させられます。

ナンダ・コート自体は7000mに満たないヒマラヤでは小粒な山なのですが、当時の粗末な装備、少ない情報、未知の高所生理、悪天候との戦いなどを考えるとこの遠征登山が如何に画期的であったのかが覗えます。

戦争の暗い時代を挟んでいるとは言え、次の日本人ヒマラヤ登頂(マナスル)まで20年かかりました。



本書は事実に基づいているとは言え、筆者曰く、あくまでもフィクションとして脚色しているとのことですが、綿密な取材を重ねていることもあり、事実も大きく異なるものではないと思います。

小説は遠征隊員の浜野の視点で語られる臨場感溢れる描写が秀逸です。

ちなみに本遠征は立教大学のWEBページにも今なおトピックスとして掲載されています。

(以下立教大ページより無断転載 (^^;)
169-6975_IMG.jpg 169-6981_IMG.jpg

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白色LEDってどうよ?- その2

今回のカラーサイエンスTipsは白色LEDの話の続きです。

前回は白色LEDの仕組みとその発光スペクトルを解説しましたが、今回から白色LEDを使用した様々な機器についてレビューしてみます。

・液晶のバックライトとしての白色LED

PCの液晶ディスプレーや液晶TVのバックライトに白色LEDが使用されているのは知っていますよね。

液晶自体は単なるシャッターですからディスプレーに画像などを表示させるためには、裏から光を当てる必要があります。これが液晶のバックライトと呼ばれるもので、従来は冷陰極管(蛍光灯)が使用されていました。

バックライトとしてLEDを用いるメリットは

・軽量、小型化が可能
・消費電力が低い
・部分点灯させることでコントラストを改善することができる
・温度による明るさの変動がない


などがあります。

よく誤解されているのですが、LED液晶のTVは色が鮮やかで綺麗といったことは全くありません
むしろ、スペクトル特性の良くないLEDを用いた場合、赤などの再現に問題がでるケースもあります。

(RGBの三色LEDで構成されたバックライトを用いた場合は広い色域が確保できますが、調整や制御が困難なので、一部、色確認用のディスプレーに採用されているだけです。)

画質に影響する要素としては、コントラストの改善があります。

液晶はシャッターを閉じた状態でもバックライトの光を完全に遮断することはできません。
つまり、画面で真っ黒に表現したい個所でも光漏れで黒が若干浮いた状態になってしまいます。

これによってコントラストが低下し、全体に締りのない画面になってしまいます。
バックライトに冷陰極管を使用している場合には避けようのない問題でした。

白色LEDの場合は小型なので、画面の全面に複数のLEDを配置することができます。
そして、それぞれのLEDは独立して発光量をコントロールできます。

つまり、表示する画像の濃淡に応じてその個所のLEDの光量を調整すれば、液晶の光漏れの発生はなくなり、締まった黒が表現できてコントラストの良い画面となります。

光量調整のイメージとしては下の画像のようなものと考えてもらえればいいかな。

devideled.jpg

左:表示する画面      右:その時のバックライトLEDの点灯状況

このようなバックライトの制御をエリア点灯とかローカルデミングと言います。

ただし、全てのLED液晶TVがこのような制御をきっちりやっているとは限りません。
境界部分に違和感があったりすることも。
例のようなモザイク状ではなく、単に縦横だけの点灯制御をおこなっている場合もあります。



単にLEDバックライト液晶TVといってもどのような構成と制御を行っているかで画質に差がでます。
このあたりは家電量販店などではきっちりと説明してくれないかもしれませんね。

まぁ、人の感覚は環境に順応するので、画質などは比較しないとわからないでしょうが。

次回は「第四の照明」と言われているLED照明についてだよん。ではでは。


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プロフィール

ひろろ

Author:ひろろ
Thrill‐Seeker
刺激が行動原則です。
クライミング、沢登り、ランニング、パラグライダー、音楽、アコギ、ロック、プログレ、画像処理、カラーサイエンス…京都からの発信です。

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